幼馴染。
幼い頃から仲が良い人間のこと。
聞こえはいいかもしれないけど、俺にとっては大問題。
少女マンガとかの設定でもよくあるらしいが、幼馴染に恋をするのは・・・正直辛い。











気まぐれサンセット

















「なー宍戸ぉー」

「ん?なんだよ岳人」

「お前、彼女って・・・いる?」

ぶっ!?(←吹いた)」





部活の休憩中、岳人が顔を赤くしながらいきなりそんなことを言った。(おかげで飲んでいたスポドリを大幅に吹き出してしまった。)
当の岳人はきったねーと言って、俺から少し遠ざかる。
俺は口の周りをタオルで拭ってから、言葉を発した。





「な、ななな・・・!?」

「・・・宍戸に話したのが間違いだったか・・・」

「い、いや・・・別にいいけどよ・・・なんだよ、いきなり?」

「・・・それがさぁ、侑士のやつに彼女ができたみたなんだよ」

「何!?小学生じゃねぇだろうな!!?

さぁ・・・(-_-)ちゃん、って言うらしいけど。」




いいよなー、彼女・・・と呟きながら、岳人が口を尖らせた。
どうやら、彼女というものに憧れているらしい。
・・・“彼女”か。



「あ、でもお前にはあの子がいるもんな!」

「・・・え!?」

「ほら、あの幼馴染の・・・ちゃん!!」




ドキッ



まるでのベタベタの恋愛ドラマように胸の鼓動が速くなった。
そう、俺はが・・・俺の幼馴染が好きなんだ。



「いいよなー、あんな可愛い子。俺もあんな彼女欲しいぜー」

「彼女じゃないよっ」



聞き慣れた声が突然後ろから発された。
後ろを向くと、至近距離に噂の幼馴染がいた。
その顔があまりにも近くにあったため、驚きと照れで硬直してしまう。



「おわっ!?ちゃん、いたのかよ」

「いた、ってゆーか今来たの。だってもうすぐ部活終わるでしょ?」




にっこりと、は笑顔を岳人に向ける。
突然出てきたのであまり気にしてなかったが、今思えばなんか虚しいことを言われた気がする。
「彼女じゃない」
きっと、彼女にとって俺は“彼氏”にする対象ではない。
これが、幼馴染には一番辛いこと。



「ね、亮。聞いてる?今日も一緒に帰ろうね!」

「あ、ああ。」



視線が岳人から俺へと移されたので、俺はとっさに目をそらしてしまった。
はそんな俺をとくに気に留める素振りを見せず、じゃあまた後で、と言って校舎へ入って行った。
俺はきっと、単なる幼馴染。
お互いにとって大切な存在であることに間違いはないが、恋愛対象ではない。
きっと、はそう思ってるに違いない。




「で、今日もふたりで帰るのか?ほんっと仲良いよなーお前ら」

のやつ、歩いて帰るのはめんどくさいんだとよ。」

「だからって宍戸と2ケツすんのかよー」

、自転車も持ってねぇんだよ。まぁ、いいトレーニングになるしな。」





もちろん、これは照れ隠しの言い訳だ。
本当は、が後ろに乗るだけで、腕を腰に回すだけで、胸の鼓動の高なりはやまない。
でも、こんな日々もいつまで続くのかわからない。
きっと、この先には俺が敵わないような彼氏ができて、はそいつの自転車の後ろに乗るんだ。
俺と帰ることもなくなって、いつしか俺と会話することさえなくなってしまう気がする。
だから、俺も素直になって告白でもしてみたらいいんだ。・・・けど、言ってこの関係が崩れるのも怖い。



「・・・激ダサだぜ」

「あ?何がだよ」

「いや、なんでもない。よしっ、残り30分行くか!」



ずっと持っていたタオルを岳人に投げて、ラケットを持ってコートに入った。





















「榊センセーッ!さよーならーっ!」

「あ、ああ。さようなら」



は、俺たちの顧問の榊先生に大きな声でそう叫んだ。
あの榊先生でさえ、の明るさにはいつも驚いている。
そのの隣で歩き、自転車置き場まで一緒に移動する。
はたから見れば、俺たちはきっと恋人に見える。
そうゆう時間が、少し照れくさいけど俺は好きだ。





「よしっ、じゃあ亮、今日もよろしくぅ!」

「ああ。しっかりつかまっとけよ」





が自転車にまたがったのを確認してから、俺はペダルを漕ぎ始めた。
いつも、1人で乗る時よりは遅めにペダルを漕ぐ。
そうしたら、2人でいられる時間が少しでも増えるからだ。




「ねぇ亮、今日漕ぐの遅くない?」

「疲れてんだよ、我慢しろ」



そう口実を作って、少し笑う。
2人を包む夕焼けが、とても綺麗だった。
その夕焼けが、あまりにも綺麗すぎた。





「綺麗、だな・・・・」

「・・・え?」

「夕焼け」

「あ、ああ・・・・・・ほんとだ」

「なぁ、

「ん?」




「・・・・・好きだ」






言うつもりはなかった。決して言うつもりなんかなかった。
もうちょっと言っておけば、俺はこれまでもこれからもこの気持ちを伝えようとは思わなかった。
だが、俺の口から出た言葉は、確実にの耳に届いているはずだ。
どうしよう、は無言だ。ここは、なんとしてでも誤魔化さなきゃいけねぇ。




「・・・・、あのな」

「知ってるよ?」

「・・・・へ?」




いそいで言い訳を考えながら言葉を発しようとすると、がそれを制した。
返ってきた告白の返事は、とてつもなく意外なものだった。
それに驚き、俺は下り坂の途中でブレーキをかけて自転車を止め、を振り向く。





「これまであたしと亮、どんだけ一緒にいたと思ってんの?亮があたしのこと好きなんて、とっくの昔に知ってたよ」

「う、ウソだろ・・・」

「ほんと。亮、それで気付かれないとでも思ってたの?」

「い、いつから知ってたんだ!?」

「だいぶ前。・・・・亮ってほんと鈍感だよね?」

「・・・・じゃ、じゃあお前俺の気持ち知りながら2ケツとかしてたのか?」

「そうだよ?」

「バッ、バカじゃねぇのかお前!普通なら俺のことを避けたりすんだろ、」

「バカはどっちよ」

「はぁ!?」

「・・・さ、早く漕いで、ほらほらっ!」




混乱状態の俺を差し置いて、はとてつもなく嬉しそうにそう言った。
に押された勢いでブレーキを放し、車輪はまた回り始める。
スピードがどんどん上がってきたとき、は俺のうしろから大声で俺に話しかけた。





「ねぇー、亮ってー、ほんとバカだよねーっ!」

「あーっ!?」

「どんだけ鈍感なのー、って感じーっ!」

「何の話だよー?」

「じゃあ聞くけどー、あたしが亮のことー、好きだってー、知ってたぁー?」





の言葉を聞いたと同時に、急ブレーキをかけた。
そのため、は思い切り俺の背中に顔をぶつけた。
痛―いっ!と鼻を押さえながら文句を垂れる。





「・・・え、まじ?」

「おおまじッスすすろせんぱい。」

「う、そだろ?」

「あたし嘘つく人嫌いだからそんな人にはならないもーんっ」

「じゃあ、俺ら・・・両思い、ってことか・・・?」

「そうなるッス、せんぱい」





俺はまた前を向いてブレーキを放し、自転車を進めた。
嬉しい気持ちがこみ上げて、それが表情まで表れてくる。
きっと俺いま、凄いキモイ笑顔してるんだろうな。
でも、まぁいっか。
がぴったり俺の背中にくっついてくるし、夕焼けはめっちゃ綺麗だし。
今はとりあえず、この幸せを感じながら坂を下ろう。
そしてこの夕焼けが沈む前に、もう一回きちんと思いを伝えよう。
そうしたらは、笑って俺を受け入れてくれるはずだから。






















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