この物語は、立海と氷帝の合宿中に起こった
ごくごく普通の激ダサ帽子で照れ屋な少年が
参謀と呼ばれる糸目と、トラブルメーカーと呼ばれる少女に
迷惑をかけられまくる、少年がちょっと可哀想なお話です。








センター!










「うっわあいつまじでダセーあれで他人のこと激ダサとか言ってらんねぇよまじ恥ずかしー」
「言うな。本人はあれでかっこいいと思ってるんだ黙っておけ」
「えぇー参謀、あれはいただけないっすよーかなり公害になってるよー」
「公害だとしても黙っておけ、なんならお前が直しに行ってもいいんだぞ」
「えぇえええ絶対やだよーきもちわるーい参謀趣味わるーい」
「はははは。微妙に話がずれたぞ生き埋めにしてやろうか」
「こわーい参謀こわーい」





それは2日目の夜、全員で夕食を取っている時だった。
やけに早口で意味のない会話をしているのは、立海の柳とマネージャーであるだった。
2人は俺の斜め前に座っている。別に、会話の内容が聞きたかったわけではない。
できれば聞きたくなかったのに、聞こえてしまった。
そいつらの話が気になった理由はただひとつ、俺のことをガン見しながら会話をしていたからだった。




「・・・柳、俺になんか文句でもあんのか?」




と、俺が言うと、あからさまに2人はそっぽを向く。
俺は柳に堂々と話しかけたので、柳は堂々とそれを無視したことになる。
俺の隣に座る長太郎も心配そうに俺と奴らの顔を交互に見た。





「・・・おい柳。さっきから俺のことずっと見てたことわかってんだよ。こっち向けオラ」
「・・・いやーね、ずっと見てたんですって。参謀、そんなにこいつに好かれてたの?」
「うむ・・・実は俺も嘘じゃないかと思っていたんだ、この熱い視線はまるで恋人に送るようなねっとりとした視線・・・」
なんか違うこと言ってんじゃねぇ。大体、お前もだ。」



そう名指すと、はひょっとこみたいに口を突き出し、面白くない顔をした。
もう2人ともこっちを向いているが、それでも顔はあまりこちらを見ない。



「あらっ、私のこと好きなんだってこいつ!どうします、参謀!」
「そうだな・・・だが、俺も男が趣味ではないからこの結果でよかったんだろう」
「うっうっ・・・泣ける話ね・・・!そんなに参謀が心広いとは知らなかったわ!」
「はははは、今さら気づいたのか俺の魅力に。結婚するか」
「なぁ、俺の話を聞いてくれ」



全く、こいつらはなぜここまで人の話を聞かないのか。
聞かないだけじゃなく、話がずれてずれてずれまくっていて何の話をしているのかわからない。
たぶん、が意味のわからないことを言い出すのが悪いんだろう。
・・・いやでも、その意味のわからないことに乗っかる柳も柳だ。結局どっちも悪い。



「なんでさっき俺の話してたんだ?完全に俺の話してただろ?」
「・・・あらま、自意識過剰じゃないこいつ。どこでもかんでも自分の話がされてると思ってる」
「可哀想だな。どうする、。こいつ埋葬してやるか」
「そうね。あ、でも私は死んだらお骨を海にばらまいて欲しいの」
「ほう。なぜだ?」
「ほら、海にサンゴってあるでしょう?あれって草に骨が付着してできたんですって・・・だから私もサンゴになるの」
「そういった事実は一切発見されていないぞ。テストで万年ビリだからってそれはないだろう
「いいのいいの、テストなんて。みんないずれ死ぬんだもの・・・サンゴになるのよ」
「頭が可哀想という意味ではお前も一緒だな。宍戸と一緒で可哀想だ。」
「ほら今!俺と一緒で可哀想って言ったよな!?なにが、なにが可哀想なんだよ!!!!」



俺がすかさず興奮しながらそう言うと、2人はやっと俺の顔を見上げた。
俺が興奮しすぎて立ってしまったため、見上げられる形となる。
2人はその視線を徐々に徐々におろしていき、ある一点で止まり、そして2人同時にプッと吹いた。




「だから〜っ!!!!なんだよ!なんでお前ら俺を見て笑うんだよ!!理由を言えよくそっ!!!」




俺はとうとう涙目になりどなり散らしてしまった。
そんな俺を長太郎は可哀想な目で見て、他の奴らの視線も俺たちに集まる。
俺の大声のせいで、しーんと辺りは静まり返った。




「・・・では言うぞ」
「・・・覚悟してね?」




急に真剣になった2人の表情。
ゴクッと唾を飲む。俺は静かに頷く。















「「ズボンのチャック開いてる」」

















俺はゆっくり視線を自分の股間にうつし、そしてまたゆっくりと右手でチャックを上げた。
自分の顔がみるみる火照ってゆくのを感じながら、無言で席から離れた。
そして5歩歩くとピタッとその歩みを止め、泣きながら出口に向かって一気にダッシュした。








宍戸が食事会場からいなくなった後、の笑い声が会場内に響いたのは言うまでもない。






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