「・・・・りんっ」
――――――――――――――大丈夫、大丈夫だよ。
「なんでっ・・・・・・!」
――――――――――――――ずっと一緒だから。
forever
「凛っ!今日もいい天気だよ!屋上でお昼にしよっか」
「ああ。でも・・・屋上はやめておけ」
「・・・え?」
「・・・男がいるさぁ。」
あたしの彼氏は、いわゆる第六感というものをもっていた。
あたしには全くみえないけど、彼にだけミエるもの。
彼にだけミエる世界。
「なんで・・・」
「・・・屋上で自殺したらしい。まだ想いは残ってて、自縛霊になってる」
「そっか・・・」
「そんな気ぃ落とすな。今日は教室で食べよ、な?」
「・・・うん。」
彼の目は、生きていないモノを映した。
どれだけこれまでの人生が辛かったかはあたしにはわからない。
だけど、彼は辛くても優しかった。
優しすぎた。
「・・・なぁ、。もし俺が明日死んでしまうとしたら、どうする?」
「・・・冗談でもそんなこと言わないでよ!凛が死んじゃうなんて・・・考えたくもない・・・」
「・・・っスマンスマン、・・・ごめん、な?」
「・・・許さないもーん」
「う゛っ・・・」
「でも・・・そうだな、本当に凛が死んじゃったら、凛の目を貰って幽霊になった凛と一緒に過ごすかな!」
「・・・」
「・・・な、なによそのびっくりした顔・・・本当にいなくなるなんて許さないからね!?例えばの話なんだからね!?」
「くくっ・・・わぁーったわぁーった!そんな焦らんでもいいよ。・・・よし!じゃあもし、俺が死んだらこの目をお前にやる」
「貰ったとしても、あたしはすぐ凛の後を追って自殺する!!」
「あげた意味ねぇじゃん!」
「あはは!!」
「・・・・大丈夫、大丈夫だよ。ずっと一緒だから。」
「もっちろん!!」
あたしたちは毎日笑いあっていた。
くだらない会話。つまんないギャグ。
幸せだった。
ルルルルルル・・・・
「はい、です」
『!?よね!?』
「お母さん?どうしたの、そんな慌てて」
『今そこの交差点でね、交通事故があったらしくて・・・その事故に、凛くんが巻き込まれて・・・!!』
「・・・・・え?何言ってるの・・・・?」
『凛くんがっ・・・・亡くなったらしいの・・・・!!』
彼は特別な目を持っていた。
「俺が死んだらこの目をお前にやる」
直接的に目玉を貰うわけではなかった。
「大丈夫、大丈夫だよ。ずっと一緒だから。」
「っ!ここ教えてくれーっ」
「もー。甲斐くん、そんなんで本当に卒業できるの?」
「卒業はできる!が、入学はできない!と、思う!!」
「えばって言うことじゃないでしょー」
もう中3。いわゆる受験生なあたしたちは、いつも放課後残って勉強している。
甲斐くん、木手くん、知念くん。いつもは田仁志くんもいるが、今日は家族でバイキングに行くらしいのでいない。
「・・・3日前までは、ここで凛が笑ってたんにな・・・」
甲斐くんがボソッと呟いた。
本人は小声で言ったようだが、ただでさえ静かなこの教室にはその一言が響き渡った。
窓際一番後ろの席に、花瓶とそれにささった花が生けてある。
その花を見て、木手くんが少し俯いた。
けれどあたしは、寂しくなんかない。
「・・・さ、そろそろ帰ろっか!」
「え?もう帰んのか?」
「早くねぇーかぁー?俺もうちょっと残りたいんやさぁー」
「別にあんたたちに言ってませーんっ!さ、行こっ!」
いつものように机に座っている彼に話しかける。
みんなの口はポカンとアホみたいに開いていた。
彼は机から腰を下ろし、仲間たちにひらひらと手のひらを振った。
「「じゃーね」」
あたしたちは仲間にそう言ったあと、何もない空中に話しかけながら帰った。
彼の目には、特別なものがミエる。
「・・・あれ?あの男の子ってもしかして・・・前言ってた自縛霊?・・・よかった、成仏するんだね」
途中の廊下で、足元から消えていく、屋上から降りてきた男の子を見届けた。
「でも・・・凛は成仏なんかしちゃだめだからねっ!」
彼はいつものように優しく笑って、手を差し伸べた。
掴んでも感触がない手を握って、あたしはこう言う。
「ずっと一緒だから。」
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