小さい時に一回だけ、俺が蜘蛛に似ていると言われたことがある。

その時は自分でも意味不明で、なんで気持ち悪い虫に例えるのって泣いた記憶もある。

でも、今なら少しだけわかる気がするんだ。

確実に自分の巣で獲物を捕えて、じわりじわりと頭から喰ってゆく快感。

獲物は絶対に譲らない。俺が蝕んでやるよ。



































?」

「ああ。3年で1番美人な奴だぜ!何、赤也知らなかったのか?」

「知らねぇよ。俺、ずっとテニスだったし。」

「そのテニス部も無事引退したことだし、恋にでも目を向けてみたらどうだ?彼女、いま彼氏いないらしいぜ。」

「ふぅーん・・・」





クラスの奴にの話を聞かされたのは、ちょうど2ケ月前だった。

昼休み、購買のパンを食っている時にその話をもちかけられ、それからは俺の頭の隅にいるようになった。

顔も見たことないし、成績優秀者の張り紙の中に名前を見つけたことだってない。

だからってわざわざクラスまで見に行くほど興味もなかったので、ホントに頭のはしっこにちょこんと居たんだ。

それがある日、ひょんとしたことで俺たちは出逢ってしまった。

それから、ソイツは俺の頭から離れなくなった。









「せんせぇー。口いてぇんだけど」

「あれ、患者さん?今先生いないみたいなんだよね。」





その日は体育があって、ちょっとヘマをして唇の端を切ってしまった。

だから保健室に行ったんだけど、そこにいたのは40代のオバサンじゃなくて、だった。




「・・・アンタ誰」

「私?私は。頭痛いから休ませてもらおうと思ったんだけど・・・先生いないからどうしようかなって思ってたの。」

「ふぅーん・・・アンタ、何委員?」

「私は一応保健委員。・・・あ、手当てしてあげよっか?」





手当てって言っても、絆創膏貼るだけだけどね、とは笑った。

その笑顔は、今までに見たことないくらい綺麗だった。

テレビに映るようなどんな美人でも、こんな綺麗な笑顔は見たことない。

その笑顔を見た瞬間、俺は今までにない感情を覚えた。

“壊してぇ”

俺は、綺麗すぎるその笑顔を、崩したくなった。





「・・・よし、これでオッケー。」

「・・・上手いじゃん」

「ほんと!?嬉しいっ!」






そしてその笑顔を、俺だけのものにしたくて






「――――――・・・・なぁ、





俺は彼女を“俺のもの”にしたんだ。







「俺の名前は切原赤也。また・・・手当してくれよ?」





そう俺が笑って言うと、彼女は無邪気な笑顔でうん、と答えた。




























ある日、俺の知らない男と楽しそうに喋るを見つけた。

廊下で箒を持って、くだらない男のギャグに笑っている

俺のが、俺の知らない男に笑いかけている。

何やってんだ、

お前は、俺のものだろう?





俺はすぐを引っ張って、理科室に連れ込んだ。




「・・・な、何・・・?切原くん・・・」


「・・・今話してた男、誰」


「ク、クラスメイトだけど・・・?」


「・・・俺以外の男と喋んな」


「な、なんで?」


は俺のものだろ?」


「え・・・?なに、言ってるの?私と切原くん、1回しか喋ったことないよね・・・?」


「うるせぇよ。」







バンッ、とを壁に追い詰める。

は怯えた瞳で俺を見つめた。





「お前は俺のもんだ。」


「私と切原くん・・・付き合ってもないのに・・・それに私は、物じゃないよ!」


「じゃあ今から物になればいい。」


「・・・え・・・?」





胸から鎖骨にかけての柔らかい肌。

俺は、その白い陶器のような肌に噛みついた。

深く深く、血が滴り落ちるくらいに深く。





「痛っ・・・・!!!」






そう叫び、は俺を突き飛ばす。

は涙を溜めた目で憎むように俺を睨んだ。

そして唇を噛みしめ、噛まれた箇所を必死に隠しながら理科室を去っていった。



俺は自分の唇についたの血を舌で舐めとって、が去った扉を見つめていた。




















それから廊下ですれ違っても、は目も合わせてくれなくなった。

まるであの日のことなどなかったかのように、他人の様に。

けれど俺が噛みついたところには、制服から絆創膏が透けて見えた。




きっとあの絆創膏がキレイに取れる頃には、また違う絆創膏が違う箇所についている。

その場所は、首筋か手首か太腿か・・・あるいは、唇の端かもしれない。

それは俺の気分次第だ。








狙った獲物は逃がさない。





なぁ、





俺、蜘蛛によく似てるんだ。





お前はもう、蜘蛛の巣に引っ掛かっちまったんだよ。





糸は、そう簡単に取れないから。





俺が蝕んでやるよ。
























猛毒タランチュラ
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